大判例

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大阪地方裁判所 昭和26年(タ)22号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

原被告夫婦は満洲開拓団員として同棲していたものであるが、原告が現地応召となり、シベリヤ抑留を経て内地に帰還したが、被告は未だ日本に引揚げていない。聞くところによると、被告は終戦後蒙古人の妻となり、在留邦人の引揚げに際してもそれと行を共にしない。これは原告に対する不貞の行爲であると共に悪意の遺棄であるから原被告の離婚を求むというのが原告の請求原因である。

(判斷)

判決は当時の事情をつぎのように認定し、これに対する裁判所の見解を明らかにした上、結局原告の請求を認容した。

「原被告は昭和十八年三月九日婚姻届出をなし、満洲興安総省大阪開拓団部落において同棲していたが、原告(夫)は現地にて応召した爲被告(妻)は他の留守家族と組んで農耕に従事していたが、昭和二十年八月十八日終戦と知り現地応召者を除く被告等五十三名の残留団員は原住民の暴行を避けて県庁の所在地阿栄旗に赴き、同所に留つていたが原住民の掠奪を受け死人も出た爲、以後は団体行動を避止するの止むなきに至り、同年十一月二十九日団体は仮解散し、団員は各自めいめいの行動を採る事となつて、被告はもといた所に親しい人がいるからとて、そこえ他の三十家族の人々と共に帰つたが、当時同方面では夫のいない女や娘等は原住民の妾となつてでも生活するより外はない状態であり、被告も蒙古軍副団長の妻となつて生活するようになり、昭和二十一年八月より開始せられた同方面の邦人引揚に際しても、集合地の駅頭までは來たが自分は内地には帰らないといつて汽車に乘らず、現地にとどまるに至つたものであつて、その際の事情は必ずしも明確ではなく、従つてまた被告が果してその自由意思によつて現地にとどまつたものであるかどうか全く疑がないわけではないが、他に特段の事情の認められない本件では被告はその自由意思によつて現地にとどまることを選んだものと推認する外はない。

おもうに、終戦後の秩序混乱せる満洲において常に生命の危險に曝されていた日本人現地婦女子が夫でない男性と妾関係乃至は一時の夫婦関係を結んだとしても、かかる行爲が同人等の生命維持の爲最後の手段であつたとすれば、これは同人等の自由意思に基くものではなく、従つて同人等に対しては貞操の保持を期待することの不可能な場合に該当するものであるから、これを目して民法第七七〇条第一項第一号に所謂不貞の行爲があつたと論じ去る事はできない。そしてこれを被告の場合について見て被告が蒙古軍副団長の妻となつた事自体を以てしては未だ同女に不貞の行爲があつたとは断じ難いのではあるが、その後日本引揚の機会があつたのにかかわらず、これを抛棄して現地に留つた点に至つてはたとえ夫たる原告が現地応召のまま消息を絶ち、内地に帰還しても果して従前通り原告との夫婦生活を継続し得るか否か、十分な期待を持つことができなかつたにもせよ、自らその自由意思により原告との夫婦生活を営み得る機会を抛棄し、現地における蒙古人との夫婦生活の継続を選択したものと解するの外はないのであり、右は夫たる原告を悪意を以て遺棄したものと認むべきであると共に、爾後における蒙古人との夫婦生活の継続は原告に対する不貞の行爲と認むべきである。」

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